2019.12.21

子ども期(ここでは幼児期、児童期)に大切にすることは何でしょう? [Ⅱ-213]

 乳幼児、児童期にスマホは必要?

 私たちの生活を進化(便利、快適に)させている情報通信分野。負の側面として、子どもの「人間としての育ち」に悪影響を及ぼしていないか捉えておきましょう。

 電子メディア接触の早期化、長時間化が乳幼児期から進んでいます。年齢別子どものインターネット利用状況では、0歳6.1%、1歳18.3%、2歳46.6%、3歳45.2%、4歳56.4%、5歳67.8%、6歳66.8%、7歳68.9%、8歳71.2%、9歳77.3%と続きます。年齢があがるにつれ、利用状況が高まります。利用時間は、0歳から9歳で、61~164分です。(内閣府政策統括官報告より)

 基本的な発達に必要な直接体験する時間が少なくなり、ことば、コミュニケーション、目や脳にも影響があると言われています。医師らが保護者へ「スマホに子守りをさせないで」、児童へ「スマホの時間私は何を失うか」と呼びかけています。世界には高校生になるまでスマホを持つことを禁止している国や、乳幼児がスマホやタブレットの画面を見る機会を極力避けるよう呼びかけている国があります。

5歳児・ゆり組の子の演奏を見つめる3歳児・たんぽぽの子たち

 子ども期に大切なこと

 子どもはゆっくり、じっくり、時間的な間があって育ちます。そこには、子どもの中から湧き起こる「してみたいなあ」という意欲、新たなことに挑戦したい願いをもち、実現させ、新しい自分を築いていきます。「できるかな、でも難しいな」という出来るようになるまでの心の揺れ、葛藤なども大切にされて育ちます。受容的、応答的な関係の中で、認められる、あてにされる、役にたつなどの実感を持ち成長します。

 それぞれの時期に、その時しか出来ない生活(遊びや学び)を送り、その時しか味わうことのできない感情や思考とともに、たくさんのことを自らの内に育てていきます。そのことを幼稚園で発行する「桐の朋」や「つうしん」でお伝えしています。

 子どもには生存、生活、成長発達、遊び学ぶ権利があり、満たされることを求めます。こうした経験の積み重ねが、子どもが自分の人生の主人公となり、社会に主人公として参加することに繋がります。すべての市民が社会の主人公となり、主権者として社会に参加、参画するようになってほしいです。

永井先生、ありがとうございました

 子ども期の発達保障を

 2019年3月、国連子どもの権利委員会(CRC)が「日本政府第4・5回統合報告書に関する最終所見」として、「子ども時代」(子ども期)の発達保障を求めました。それは「社会の競争的な性格による子ども時代と発達が害されることなく、子どもがその子ども時代に享受することを確保するための措置を取ること」という要請で、私たちは重く受けとめなくてはなりません。

 先日参加した「子どものからだと心・全国会議」では、日本の子どもの現状に対して「子どもの意見を聞きながら、友だちと遊びこんだり、家族とゆったり過ごしたり、十分な睡眠をとったり等々、時間的にも精神的にも社会関係的にも、豊かな子ども期を過ごせるような仕組みをつくろう。そのためのおとなのゆとりも保障しよう。」という提言がなされていました。

 子どもの権利条約が国連で採択されて30年、日本で批准されて25年がたちますが、大きな課題です。

手作り笛で演奏する先生とたんぽぽの子どもたち

 『子どもの心はどう育つのか』

 精神科医の佐々木正美先生より学ぶことが多くあります。先生は、「乳児期には子どもというのは豊かな基本的な信頼感を育てられなければならない」と述べています。乳幼児期に限らず、土台として大切にしていくことだと思います。「乳児期に最も豊かにその感性が育」ち、「基本的な信頼感を他人に対しても、自分に対してもしっかり持っている子どものほうが、次の自律的な活動に取りかかりやすい」と述べています。脳科学の知見から、記憶と感情をつかさどる「海馬」の感受性期=育ちざかり時期が3~5歳であると学んだことに重なります。

 続いて、幼児期から児童期は「好奇心や探究心が開発される時期です。想像力や創造力の基盤であり、勤勉さにつながります。子どもの悪戯の多くは未知のものを探究するための実験です。」と述べ、「十分子どもに経験、体験させてあげられれば、子どもの中に自発性というものを育ててやることができる。そのことは創造的に生きる原動力となるものです。」(ポプラ新書)と言われています。

 幼稚園から小学校の子どもの育ち、卒業生のあゆみに触れて、佐々木先生の言われていることの大切さを感じます。

玉ねぎの皮(カレー作りの)で染めたスカーフを首に

 未来と現在を繋いで考える

 保育学会会長の汐見稔幸先生は、「今後、全てはコンピュータになっていくことで、20年後には今の仕事は半分くらいしか無くなっていくだろうし、生活そのものが頭を使うとか、身体を使うということがほとんど無くなってしまって、うまくいくと本当に楽な社会になるけれども、下手をすると人間はやることがなくなっちゃう。(中略)だから私たちはやはり面倒でも、手でつくることを子どもたちと楽しんでもらうとか、しょっちゅう議論しながら「そうか」ってお互いに教え合うということがどれだけ大事かを体験してもらいたいし、感じるということを豊かにしたい。人間の認識というのはまず感じて、それを理屈で説明しているんだけれども、その感じるということは訓練していかなければいけない。いろんなものを見たり体験したりしたら、感じる世界が開発されていくんだけど、本当のものを見たことがないというふうになると困る。」など、未来を見据えて現在の子どもの育ちの課題を述べています。(『桐朋教育』50号特集インタビュー)

 私たちの保育でも、いろんなものを実際に見たり体験すること、そのことで感じる世界を開発していくことが大切だと考えて実践をし、子どものあゆみから振り返りをしています。

 よく学び、理想を掲げ、実践をすすめたいと思います。

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