2019.6.27

6月22日、学校説明会「桐朋小の理科」[Ⅱ-196]

 今回の学校説明会も多くの方が参加してくださり、ありがとうございました。その説明会で、理科専科を担当している長崎由季さんが話をしました。その話の中からいくつかのことをご紹介します。

 桐朋小学校は、担任が授業をする他に、「美術・音楽・体育・理科・外国語」については、専科の教員が授業を行っています。今回は、4年生以上の少し専門的な学びについて、理科での取り組みをお伝えします。

■桐朋小学校の理科教育で大切にしていること

 生物学者レイチェルカーソンの著書『センスオブワンダー』にこんな言葉があります。

「幼い子ども時代は、美しいものを美しいと感じる感覚、未知なものにふれたときの感激などの感情がよびさまされると、そのことについてもっと知りたいと思うようになります。事実をうのみにさせるよりも、子どもが知りたがるような道を切りひらいてやることの方がどんなに大切であるか」

 これは、桐朋小学校の学びでとても大事にしている考え方であり、理科では身近な自然、実験・観察を通して、子どもたちの感性を揺さぶるような機会をたくさんつくり、自ら学びたい気持ちを育てたいと思っています。

 具体的な学びについて、3つの柱に添ってご紹介します。(当日は画像、映像を交えての紹介でした)

①「身近な自然から学ぶ」ということ

 学校の中でのフィールドワークも頻繁に行っています。

 4年生では、校内にある樹木のうち一つを“マイツリー”として選び、経年変化について、観察しました。自分の木に愛着をもったり、季節の移ろいを身体で感じながら、自然を好きになることが大事だと考えます。

 “マイツリー”のスケッチを紹介します。まず、究極のお手本として、植物学者牧野富太郎氏の植物画を紹介します。すると、子どもたちは細部の変化までより鋭く観察できるようになり、描き方もがらっと変わっていきます。

 6年生では、植物の葉の蒸散作用を調べるため、木にビニール袋をかぶせます。晴れた日だと、ほんの数時間で水滴でいっぱいになり、暑い日「人間が汗かくのと似ているね」なんて実感しています。

 田んぼも大きくリニューアルされましたが、ヤゴやカエルなど多種多様な生物の宝庫で、みんなで生き物探しをしています。新しぜんひろばの池にすむ微生物の調査をするために、顕微鏡で見ると、赤丸の生物らしきものを見つけ、「新種発見だ」と大騒ぎする子どもの姿もありました。

 4年生の授業でツツジを観察していると、ある共通点を発見をした子がいました。「なぜ、一か所にてんてんがあるのだろう?」と。そこで、ツツジの花を解剖してみると、そのてんてんの根本にだけ蜜がついていたのです。これは、“ネクターガイド”といって、昆虫に蜜のありかを知らせ花粉を運ばせる印です。これこそまさにツツジが子孫を残すための戦略なのですが、疑問をもち解明していくおもしろさをみんなで感じた一場面でした。

 その年どしによりますが、社会科見学の一部として、東京湾の生物調査をすることもあります。理科室にも海水の水槽を設置し、東京湾の生物を展示しています。海の縮図のような食物連鎖が行われている世界が見られます。

②「もの・現象・人との対話」についてです。

 試行錯誤しながら、自らが結論を導くことを大事にしています。

 6年生の『酸・アルカリ』の1回目の授業で、摩訶不思議な焼きそばを作りました。味はなんとも言えません。紫キャベツが指示薬となり、若干アルカリ成分の麵には青く、そしてレモン汁をトッピングすると赤くなる。最初は見た目に驚くばかりですが、学習を進めていくと、あるときその理由に気づく子どもたちが出てきます。

 カラフルな試験管をつくりました。材料は、飽和食塩水と色水だけです。仲間と話し合い、何度も挑戦しながら、ようやく結論にたどりつきます…。(ヒントは、同じ体積でも食塩水が濃ければ濃いほど、重いということ。)

 授業だけでなく、科学好きな人が呼びかけて“理科実験団”が成立しました。

 1円と10円と塩水で、電気を生み出し、LEDライトを光らせることに成功したり、ビスマスという金属で美しい結晶作りにもチャレンジしました。すべて子どもたちからの提案であり、安全に注意しながらやりたいことを実現していきます。

 興味をぐんぐん伸ばしていける子どもたち。放課後も実験をすることがあります。

③「新たな世界の発見」です。

 本物をつかって原理や性質を理解していき、子どもたちの世界を広げていきます。

 小学校生活の中で、多様な実験器具を扱えるようになり、様々な方法で問題解決ができるようになります。

 4年生では、「金属」について学ぶのが一つ伝統になっています。生活の中に身近にある金属ですが、金づちでたたくと延びる、熱をもつ、磨くと光る…実際にやってみると、いつしかただの金属の棒が自分の宝物になっているのです。

 5、6年生では顕微鏡の使い方をマスターします。最大で400倍の倍率で見ることができ、一人一台じっくりと観察することができます。

 5年生では、メダカの卵を一人ひとつ育てるということをします。メダカの卵は1mmくらいです。肉眼ではよくわからなくても、顕微鏡を使って卵を見ると、心臓が動いて血液の流れ、さらに赤血球まで見ることができます。その感動は、やはり見た人にしか味わうことができません。そして、あとどのくらいでふ化するのか、予測しながら、本当に大切にお世話をするのです。

 昨今の科学技術の進歩は目覚ましいものがあり、ぜひ子どもたちに目を向けてほしいと思い、こうした技術の原理についても触れています。『磁石・電磁石』という単元では、リニアモーターカーやMRIの技術に使われている“超電導現象”について掘り下げて学びました。その原理を実験を通して理解すると、「だからリニアモーターカーは浮かんで、摩擦がなくスピードが出せるのだ!」と納得している子もいます。

 今回は、理科という教科に絞ってお話させていただきましたが、桐朋小学校の教科教育の根っ子にあることは、「本物に触れて、自分でやってみること。そして、学ぶって楽しい。」と子どもたちが実感するということだと思います。実は、私たち教員もわくわくしながら、授業をしている毎日です。

 わたしも桐朋小学校で理科が大好きになり、ときどき授業に参加させてもらっています。

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