2018.7.16

三年保育の夢を語ろう [Ⅱ-163]

 幼児期の子には何が大切なのか、何をどうすればよいのかがわかり、安心して、楽しく穏やかに子育てや保育をすすめられたら…。子育てをしながら、子どもを支え、励ましながら、子どもに学び、親も保育者も育ち合いたいです。

 一人ひとりの、幸せな子ども時代のために、私たちは何ができるのでしょうか。「一人ひとりが授かった命を大切に育み、自分らしく命を輝かせる、なかまや大人とかかわり、ちがいを認めあい、豊かな世界をつくり出していくことを大切にしたい。」「『個の尊厳』『基本的人権』を大切にし、その子その子の人間性を豊かに育みたい。」そうした願いをもって、4月より3年保育、異年齢保育を行っています。

 7月13日発行『桐朋教育』特集の座談会「三年保育の夢を語ろう ―桐朋幼稚園の今までとこれから―」の一部をご紹介します。参加者は、共同研究者の久保健太さん(大学教員)、川角さん、市川さん、能登さん(3人は桐朋幼稚園保育者)。4名の方の思いをお伝えしたくなりました。

三年保育への願い

【川角】 子どもたちには、幼稚園に来て、まず楽しいという思い(活動が楽しい、みんなで一緒にいて楽しい、先生と遊ぶのが楽しい…)を十分に味わってほしいなと思っています。

【市川】 主に水・土・泥・草花等といった、自然とかかわる遊びをたっぷり保障してあげたいということはとても大事に思っています。(略) 自分の感触や感覚とかで自然物を知ることが脳を育てたり、大事な感覚を育てていくことを、子どもと保護者とみんなで共有しながら、楽しんでいきたいな。

【能登】 感覚という面と繋げて考えたい事として、いろんなものを感じて吸収できる身体を育んでいくことが、今後とても大事になってくるのかなと思う。(略)自然物であれ何であれ、見て、聞いて、触れて、嗅いで、たくさんの感覚を身体に吸収していくことを大事にする時期なのかと思います。

【久保】 私たちは、脳を育てることが成長や発達だと思いがちですが、脳とは別に、身体や内臓が動いているんです。(略)今いろいろな学問が発達してきて、脳を育てるのと同じくらい、この内臓感覚をしっかり育てておくことの大事さがわかってきました。つまり、内臓感覚をベースに人間は脳の活動をしているんだということがわかってきました。脳の活躍は九歳、十歳から強まってきますが、それまでは「快不快のメッセージをちゃんと出せる身体」と「身体のメッセージをちゃんとキャッチする脳」、この二つを育んでおくことが非常に大事だと思います。

【能登】 昔は空き地があったら、いろんな年代のお兄ちゃんとか小さい子とか、異年齢の子どもたちが自然に集いましたね。そういうのをこの幼稚園でできたらいいなと思います。小さい子も一緒にできるように遊んだり、もめ事が起きても大きいお姉ちゃんお兄ちゃんが見守って、時には助け舟を出してくれたり。そういうかかわりが普通にみられるような、空き地みたいな場所に幼稚園がなるといいなと思う。

【久保】 何が大事かというと、一つはあの人をまねしてみようといった、教材やモデルがたくさんあること。併せて大事なのは、伸び縮みできる関係があること。人間関係というのは、常に密着しているか離れているかのどちらかということではなくて、縮めたり、近づきすぎたらまた伸ばしたりして、間合いを計ります。その手ごころを周辺参加しながら、子どもたちは自然に身に付けていたんです。人間関係を伸び縮させることは非常に大事なんです。

 

【久保】 僕たちはマニュアルを自分で越えていく人間を育てなければいけない。その時には、二つの条件があります。一つ目は「うまくいかなくてもいい、やるんだ」と失敗を恐れずに挑戦する心。二つ目に、失敗してもやりぬく力。(略)

 今、五歳の子たちは三十年後に活躍する人たちです。もっともっと不透明な時代を生きると思うけど、その時代を楽しく生きてほしい。ただ生きるだけじゃなくて、幸せになってほしい。幸せの条件の一つは、やりたいことをやることなんです。そういうことからも、まずおもしろがる力が大事だろうなという感じがします。

【市川】 「おもしろがる」と「やり抜く」。小さければ小さいほど、それをシンプルに考えて、自然とともに生きていけばいいのかなと思いました。

【川角】 おもしろそうだなって思って、キャッチする。そういう力と、皆で一緒にやっていけるというようなコミュニケーション能力も重要になってきますよね。

今大事にしていること

【川角】 子どもの発見から広がっていくというのがおもしろくて。発見できる環境、時間がたっぷりあって、友だちと「これ、そうじゃない」といって集まって、楽しい時を過ごして、そういう子どもの発想を、遊びの中で大事にしているんじゃないかと思います。

【能登】 はじめから「ダメ」じゃなくて、やってみて「こうなっちゃった」と出会って、いろんなことを気づけるようにするところが桐朋っぽいのかなと、僕は思っている。

 できないとか、いい面ばかりじゃないってところも含めて、子どもたちが自分を認められるようになってほしい。(略)傍にいる大人として「できないところも見てるよ」というメッセージを伝えたい。その上で、人と生きていく為に気持ちの折り合いをつけられるようになっていくといいと思います。

【市川】 私は、桐朋幼稚園の魅力の一つとして、響き渡る歌声とか音への感覚とか、きれいなものをきれいだなととらえてそれを表現するとか、歌声の質がとてもすばらしいと思うんです。

 

【川角】 三年保育、三歳児保育が新しくスタートして、初めての取り組みだし、私たちも手探りしながらやっていくと思うんですけど、それも楽しみながら、こちらだけではなくて、家庭とか保護者の方とも一緒に作り出していけたらいいなと思います。子どもたちと保護者の方と保育者が協力しながら、対話しながらやっていきたいなと思います。

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