2009年度 初等部教育で大事にしたいこと


 子どもたちの元気な声が園に学校に響いています。ゆり組の子どもたちが入園してくるばら組のパートナーのために歓迎のペンダントを一生懸命作っています。2年生は新入生を迎える表現の練習を始業式から始めています。一年間の成長をこの表現に込め、力一杯向かっている姿が印象的です。5年生はパートナーとして、1年教室の清掃や装飾などに力を尽くしています。
 新学期をむかえ遊びに学習にはりきっている姿を見るにつけ、子どもたちの未来に生きる力を伸ばしていく仕事に力を尽くさなければ、という思いを新たにします。今年度は学校改革の制度的完成の年で、実践的にも研究的にもより確かに進めていく年です。教職員が協働して改革の実践をさらに推し進めていきます。


1.原点に一人ひとりの子どもを−初等部の保育・教育の理念

桐朋学園初等部では創設以来、保育・教育のよりどころとして、原点に一人ひとりの子どもをすえることを大事にしてきました。2009年度の「桐朋学園初等部で大事にしたいこと」の中でも、今まで初等部の保育・教育の理念で大事にされてきたつぎの三点を普遍的な理念として掲げます。
・原点に一人ひとりの子どもをすえる。
・生涯をとおして地球市民としての自己実現のための素地の形成を援助する。
・学びと自治の共同体を創造する。
 原点に一人ひとりの子どもをすえるとは、一人ひとりの違いを認め、一人ひとりをかけがえのない存在として認めていくことです。私たちの仕事の上での指標としては、個々の子どもについて理解を深める、初等部の子どもについての状況をとらえるなど、子どもの諸事実に基づいて仕事を進めていきます。そのうえで「生涯をとおして地球市民としての自己実現のための素地の形成」を目指していきます。さらにこうしたことを具体的に表すものとして、私たちは自らの仕事の地平に『子どもの権利条約』をおいています。
 もう少し詳しく述べますと「自己実現」の前に「生涯を通しての」というように、初等部の教育は、長い生涯を見据えたものにしたいと考えます。また、「地球市民として」とあるように、その自己実現は、利己的なそれではなく、世界の多様な人びとと共存していくものとして、地球規模の視座をもってものごとを考えられる人間として成長することを願っています。もう一つ、「素地の形成」とありますが、子どもの発達には段階があり、その時期にふさわしい発達課題を大切にしていく、ということです。
 幼稚園、小学校の時代は、みずみずしい感性や伸びやかな身体を育み、青年期の学びを支える基礎を身につけていくときです。そして同時に自らの願いを集団の中で実現していくことや、総合活動や自治活動の中でものに積極的に関わり、生きる力に結びつけていくことも大事にされなければなりません。そうした意味で、保育・教育の理念の三点目に「学びと自治の共同体を創造する」を挙げました。
 私たちは、子どもについての仕事をしていくときに、いつでもこの理念にたちもどって、仕事の軌道修正を必要に応じておこなえるよう、考えていきます。

2.子どもの「居場所」に目を向けていきます

(1)子どもの居場所−学校における諸側面
 園・学校がすべての子どもにとって真に「子どもの居場所」になっているかどうか、子どもたちの園・学校生活が快適に合理的に過ごせる空間になっているかどうか、その物理的側面に着目していきます。教室環境の整備、居心地よい教室設営の工夫を大事にしていきます。教室だけでなく、園・学校内外の環境を安全に着目しながら整備していくことも大事にしていきます。
 特に子どもたち自身が自分たちの居場所、環境に目を向け、過ごしやすい居場所づくりを行っていけるように働きかけていきます。昨年度には、三階の空き教室の利用について代表委員会を中心に考え合ってきました。多目的室(3F)改装までの間、遊びのスペース、通路としての機能など要求を練り上げて交渉し、その実現が可能になりました。また共有の遊び場である第4体育室、グランド、プレイルームについて子どもたち自身が住みよい居場所になるよう考えてきました。さらに自分たちの生活の拠点である教室の居場所を考え、作り変えていけるような課題もあります。
 子どもの居場所における物理的側面とともに、今までの「大事にしたいこと」で強調されてきたその心理的側面については、さらに大事にされなければなりません。子どもが日常巻き起こす状況をどう捉えていけばいいか、どのような教育課題を見出せばよいか、子どもと教職員の関係における信頼関係作りをどう行なっていくかもこの側面です。1で述べた『子どもの権利条約』を私たちの仕事の地平におくことも、子どもの居場所における心理的側面の内実にかかわることとして、大事にされなければなりません。

(2)子どもの居場所−家庭と学校の連携の側面
 子どもの居場所のもう一つは家庭です。子どもの家庭での居場所(物理的側面、心理的側面)や家族のあり方の問題など、ともに考えていきたいことがらです。家庭が休息と安息の居場所になっているかどうか、親子の関係がよい状態にあるかどうか、私たちは保護者のみなさんと子どもの問題を目の前にして、日常的にも家庭における子どもの居場所について語り合っています。
 こうした意味で家庭と学校の連携を今一度考え直していきたいと思います。子どもの成長・発達を軸にして家庭と学校の連携をとらえなおしていきます。
 「子どもの居場所(学校における側面、家庭と学校の連携の側面)について」は、「懇談会」「保護者勉強室」「初等部ワークス」の中でも考えていこうと思います。

3.教職員のさらなる協働をすすめていきます

(1)学校改革の制度的完成と協働の学校体制
 2004年度から始まった学校改革=コミュニティーとしての学校づくりは教職員の協働の体制なくしては成り立ちません。私たちは、2003年度から学校改革を意識してさまざまな協働の関係を模索してきました。自治の時間(5、6年)における教職員の協働、基礎の時間(56年)における協働、教務や校長が専科的に授業に取り組んだこと、カンファ(子どものことの相談)における協働、など数年前からすすめてきました。2007年度からは月三回程度の「自治の時間」に変え、さらに朝の時間に「高学年基礎の時間」をほぼ毎日帯で取り、月一回の「少人数基礎の時間」を設定しています。こうした取り組みの中で学校改革の理念「コミュニティーとして成り立つ学校」「全教職員で子どもたちを育てる」ことを実質化させていきます。今年度は学校改革・ゆるやかな専科-担任制の始まりの年となります。
 学校改革の今年度の重点的な取り組みについては5章で改めてご説明します。

(2)学年団の協働の態勢
 昨年度も実践された「学年のめざすものづくり」「学年懇談会づくり」は今年度もまた大事にしていきます。このとき学年団(学年担任+学年付教員)が協働し、学年懇談会だけでなく、日常の学年の子どもを語るときも、学年の教育活動を進展させるときも、後で述べる保育、授業公開のときも協働的な志向を大事にしていきます。今年度より三学年から六学年まで36人学級の2クラスになりました。24人学級が36人学級となり、72人の新たな学級づくり、学年集団づくりの課題を掲げます。学校改革の理念の一つ「子どもたちの顔が見える学校・全校の子どもたちを全教職員で育てていく学校」に向けてこの協働の態勢は重要です。

(3)保育・授業の力量を高めるために実践の検討をすすめていきます
 いままでも私たちは、教室や授業などが積極的に開かれたものにしていくよう考えてきました。保育参加懇談会、授業参観懇談会でも、子どもたちの具体的な姿をとおして語り合うことを大事にしてきました。
 2009年度は、初等部の研究方針の大きなテーマを『子どもの学びと教育課程の創造― 子どもの現実に学びながら―』とし、教職員相互の保育公開・授業公開および保育研究・授業研究を積極的に行っていきます。教室を開き、保育・授業の力量を高めるために力を尽くしていきます。また、学習指導要領改訂にともない、私たちの教育課程を再構成する研究を行なっていきます。

(4)確かな学力を育てる実践をすすめていきます
 今年度で七年目になる「復習テスト」の取り組みは、私たちの仕事における共通の尺度づくりの実践として定着してきました。「復習テスト」の実施後、結果を集計し、分析し、算数や国語など教科学習の課題を見出していきます。それは教科内容の改革や授業改革に結びついていきます。また、教科カリキュラムの改革・授業改革に結びつけることとともに、個々の子どもへの指導、「高学年基礎の時間」「少人数基礎の時間」の内容にも結びつけていきます。よりきめ細かな指導を行うために、高学年担任、専科、教務に加え、1年・2年担任も「少人数基礎の時間」に参加していきます。
 まとめていえば、私たちが子どもたちの学力を把握し、子どもたち自身が課題を見いだせるよう指導し、援助していくという態勢が組織的に行われていく、ということです。「学力問題」が日常、文部科学省においても、マスコミにおいてもさまざまに語られています。こうした状況にも着目しながら確かな学力を育てる実践をすすめていきます。
 このことにかかわり今年度もきめ細かい学習指導のため、実質的な少人数教育を行うために、算数を中心にした「学習補助員」を三学年以上の各クラスに配置しています。週3時間程度、授業における学習補助や放課後の個別指導に入ります。

文部科学省は、全国一斉に「全国学力・学習状況調査」(以下「学力テスト」と略記)を実施しました(六学年、中学三年で毎年実施)。国公立はもとより、私立学校に対しても行うよう要請がありました(実施の主体は文科省。参加の主体は学校設置管理者)。私たち桐朋学園はこの「学力テスト」を行わないことを東京都に回答しました。その理由は、第一に文科省は「学校間の序列化や過度な競争につながらないよう配慮」といっていますが、「学力テスト」実施の各地の状況は、競争のために子どもが犠牲になっている実態が報道されていました。私たちは、学力は競争のなかで獲得されるのではなく、子ども相互の関係のなかで育まれると考えています。第二に教育基本法改定後、教育計画の立案、実施、評価が画一的に行われようとしていますが、全国一斉「学力テスト」もその一環であると私たちはとらえています。教育計画作成の主体は学校にあり、目の前の子どもの現実を踏まえ、独自に責任を持って作成されるべきだ、と私たちは考えます。教育課程の自主編成、学力実態調査の実施など、先に述べた確かな学力を育むために実態把握、授業研究、授業改造など一連の実践・研究をたゆまず行っていきます。第三に「学力テスト」は同時に「学習状況調査」も悉皆(全員調査)で実施されます。「一週間に何日塾に通っているか」「家の人に大事にされているか」などプライバシーにかかわる調査も行われ、その結果分析を民間企業に委託させることも明らかになりました。個人情報保護法との関連でも問題を感じます。
 私たちは、学力とは何かについてとらえ直し、学力の実態調査(復習テスト)の質を問い直し、子どもたちに確かな学力を育てることに力を注いでいきます。

(5)幼稚園教育要領、小学校学習指導要領の改訂について
 文部科学省は昨年三月、「幼稚園教育要領」「小学校学習指導要領」を改訂・告示しました。学習指導要領は、2008年度は改訂趣旨の徹底、理解、2009年度、2010年度の2年間は移行期間、2011年度に全面実施の予定であるといいます。現行指導要領の大きな理念である「生きる力」を育むことはそのまま新指導要領に引き継がれ、主眼は、「基礎的・基本的な知識・技能を習得すること」と「習得した知識・技能を活用して課題を解決すること」に発展させ、「思考力」「判断力」「表現力」を育成することにあります。教科学習時間の1割増加、小学校では国語、社会、算数、理科、体育の総時数をそれぞれ増加しています。また、高学年では週1時間「外国語活動」を取り扱うことが加わりました。
 前回の学習指導要領改訂では、文部省(当時)は「ゆとり教育」ということが主眼となり、教科内容を削減して行きました。今回は、「脱ゆとり教育」ということで、教科内容を増加しています。私たちは、前回も改訂内容をそのまま受け入れるのでなく、現在の教育内容をつくりあげてきました。今回も園・学校として大切にしてきている教育方針、教育内容を確かめながら、2009年度も外国語活動、授業時数の問題などさまざまに検討を行っていきます。これらについては早めに結論を出し、お知らせしたいと思います。

(6)主体性を育む自治の実践をすすめていきます
 子どもたちの創意を生かし、ゆとりを持って自主的に活動を展開していけるよう、また意識的に活動を持続させるため、月三回程度「自治の時間」を位置づけています。56年が中心となりながら、縦割り(1〜6年)の活動やパートナー学級の活動、始業式・終業式の司会、1年生を迎える会・6年生を送る会の運営、子ども集会、児童会発表の活動など、教員の援助のもと子どもたちが自分たちの活動・生活を自主的に組織していくことをさらに展開していきます。「子どもが主人公になる学校」をめざしていきます。
 子どもたちの活動をきめ細かく指導していくため、そして低学年との自治的活動(縦割り活動)の可能性を追求するため、1学年・2学年担任も「少人数基礎の時間」と同様に「自治の時間」にも参加しています。
 教育構造の大事な部分を占める自治的諸活動は、「自治の時間」に限定して考えるのではなく、運動会の活動、合宿活動、学級の活動で日常的に、発達段階に応じて実践していくことを大切にしていきます。

4.保護者との協同をすすめていきます 

私たちは教職員の協働とともに保護者との協同について一貫して大事にしてきました。私たちは、PTA活動においても子どもを真ん中に置きながら、保護者と教職員が協同して活動をすすめてきました。今後ともその姿勢に変わりはありません。一昨年度より学校PTA活動の組織改革がすすめられました。組織は改革されても、その姿勢は堅持していきたいと思います。
 一方、協同の関係を生み出す重要な場として学年懇談会、学級懇談会、個人面談があります。各学年で学年懇談会を開催し、「学年としてめざすもの・大事にしていくこと」を提示していきます。また、具体的な子どもの姿を語り合う場として、個人面談、参加参観懇談会(幼稚園)、学級懇談会(小学校)があります。どのような内容で懇談会を持つか、懇談会の準備をどうすすめていくかなど、ともに考えていくことも大事にしていきます。
 子どもの一人ひとりの成長・発達のために保護者との協同はとても重要なことであると考えます。懇談会、保育・授業参加参観、個人面談に限らず連絡帳、学年・学級通信、など日常の協同も大事にしたいことです。

5.学校改革・「ゆるやかな専科-担任制」について

(1)学校改革の理念と「ゆるやかな専科-担任制」
 学校改革の内容の一つに、高学年における「ゆるやかな専科-担任制」があります。「ゆるやかな専科-担任制」とは、担任教員が教科の専門性を持ちながら担任に位置づいていき、また、専科教員が担任として位置づく制度です。
 高学年に行くにしたがって、教科内容は高度になり、革新のスピードもはやくなっています。専門的・継続的に教科について研究することがもとめられているのです。
 とはいえ中学校段階のような専科=担任制では、小学校教育の総合的な課題に対応することはできません。また、専科として学年全体の授業を持つことは、学年の教員で子どもみんなをみていくことになります。その面からも学校改革の理念・子どもたちを全教職員で育てていくことの実現につながります。
 したがって、単純な専科制ではなく、担任するクラスの授業を中心に持つ制度とし、高学年における教科内容の高度化に対応することと、小学校担任として子どもの発達を総合的に見守る役割の両方を追求することをめざします。

(2)「ゆるやかな専科-担任制」の実際
 学校改革の制度的完成の今年度、高学年における「ゆるやかな専科-担任制」が本格的に始まります。「ゆるやかな専科-担任制」の実際について、5年生を例にしてご説明いたします。
 5年東組では、担任が自クラスで国語2時間、算数5時間、社会3時間、総合3時間の計13時間持ち、5西で社会科3時間と国語を2時間持ちます。5東には、国語専科3時間、理科専科3時間、体育専科3時間、音楽専科2時間、美術専科2時間、図書専科1時間が受け持ちます。
 5年西組では、担任が自クラスで算数5時間、総合3時間、美術2時間の計10時間持ち、5東で美術2時間を持ちます。5西には、国語専科5時間、社会科専科3時間、理科専科3時間、体育専科3時間、音楽専科2時間、図書専科1時間が受け持ちます。運営委員長は特に5時間の算数を協働して位置付きます。
 また、教務は、5年、6年の国語、社会科を計13時間受け持つことになります。
 学年付き担当として1名がそれぞれ入り、学年団会を持ち、子どものこと、学年の教育活動のことを協働していきます。また、ゆるやかな専科-担任制5年会議・6年会議を持ち、教科指導や子どもの指導について協働していきます。
 ゆるやかな専科-担任制の実際については、5学年・6学年懇談会で説明されます。また、今年度始めての実践ですので、絶えずその実際の進展を確かめながらすすめていきます。

以上が、2009年度の「初等部教育で大事にしたいこと」ですが、今年度もまたさまざまなところで保護者のみなさまと率直な意見を交流させて、子どもの成長のために歩んでいきたいと思います。参加参観懇談会、学級懇談会などでこの「大事にしたいこと」「学年で大事にしたいこと」の柱のいくつかが、具体的な子どもの姿とともに語られることを願っています。