2013年度 第1号 三浦剛

2013.07.22 Mon

演劇専攻 三浦 剛 (常勤講師)

「演技」=「世界と関係する」

僕は演劇専攻2年生のミュージカルコースと声優コースの授業を持っている。その名も『演劇演習」。演劇を志す学生にとっては最も重要な「演技」の授業である。「演技」といっても色々と種類がある。時代劇なのか、現代劇なのか、ミュージカルなのか、アングラなのか、小劇場なのか、暗黒舞踏なのか・・・。

2013年の学生には課題戯曲として別役実氏の『受付』を与えた。これは不条理劇と呼ばれるジャンルの作品で、同氏はその権威である。本来は男女一名ずつの二人芝居だが、4つの「受付」に座る4人の女性と1人の男で演じるよう演出し、意図については各自で考えさせる構成とし、授業内で毎週発表することとした。
 ミュージカルコース6チーム、声優コース5チームの計11チームを毎週交互に観ていくわけだが、これが実に興味深い。各チームの演出解釈が大きく異なるのだ。2、3の無難な解釈のうち、どれを選ぼうと悩むのかと思いきや、全11チームが全く違う解釈の中で「演技」をはじめた。これには観ている側の学生も驚いていた。

「その手があったか!」

「どうしてそういうことになるんだ!?」

「何だかよくわからないが、成立してる!」

などなど。

中にはプロの演出家顔負けの新しい解釈が飛び出てきたりもする。演劇学生の恐るべき能力が発揮されているわけだ。さあ、しかし、ここからが大変。新しい「解釈」を表現するには、新しい「演技」を模索しなければならない。そんなわけで学生達は頭を抱えはじめる。どう演じれば自分たちが表現したい解釈が伝わるのか思案する。とんでもない「演技」をやってみてそれを成立させようとする。そして彼らは気が付く。新しい「演技」など存在しないということを。どんな難しい解釈も、目新しい演出も、舞台上に立っている登場人物同士の「関係」が希薄であれば表現にならない。そしてその舞台上の「関係」に、観客が「関係」してこなければ何も動き出さないのだ。

僕の尊敬している老齢の舞台俳優がこう言った。「生きてるだけで丸儲け」。その通りなのだ。俳優という職業は森羅万象と「関係」せねばならない。そして生きるということは常になにかと「関係」し続けるということなのだ。常に広い世界と「関係」し、それを情感豊かに舞台上で表現してくれる舞台俳優が増えてくれば日本の演劇事情ももう少し変わってくるかもしれない。桐朋の学生たちには是非ともそんな俳優になってもらいたい。彼らは今日も夜遅くまで「演技」=「世界と関係する」稽古を続けている。

三浦剛(劇作・演出) プロフィール
主な作品に「孤独の惑星」「実験都市」「完全な真空/BLACKBOX」「『金の卵』シリーズ」など。2010年「闘争か、逃走か。」で、世田谷シアタートラム・ネクストジェネレーションを受賞。「孤独の惑星」が第65回世界SF大会にて上演され好評を得る。