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2013年度 第8号 荻野千里


2013.09.26 Thu

音楽専攻 荻野千里 (教授)


海外研修旅行を終えて

リューベックホルステン門

2013年度の音楽専攻海外研修旅行を、無事に終えた。広く社会人を受け入れている本学では、今年度の学生としての参加者は、18歳からなんと65歳までと、なかなかバラエティに富んだ面々だった。研修先は今回初めての北ドイツリューベック音楽大学、30分も北に車を走らせればバルト海、すぐ目の前は旧東ドイツだったところだ。今まで本学がドイツで行ってきた研修先は南ドイツのフライブルクだったため、降り立ってすぐに大きな違いを感じた。まず空の色がどんよりと暗く、気温は13~14℃程度とえらく寒い。カトリックよりプロテスタントの教会が多く、建物もより重厚で、威厳がある。ドイツ語が美しい。そして何よりも南よりイケメンが多い。(これは、単に個人的な見解か?)

学生の室内楽レッスン風景

リューベック音楽大学では、学長をはじめとし、様々な楽器の教授陣が温かく迎えてくださり、初めての研修地で不安だった私達をホッとさせてくれた。
さて、到着の翌々日から早速4日間の集中レッスンが始まる。通常、大学では週に一度のレッスンで、注意されたことを一週間かけて改善していくが、ここでは今日の注意を明日までに直していかなければならない。皆、時差など感じる余裕もなく、また美しい街の散策もそこそこに、夢中で練習する。内心「日本でもこうだったら・・・。」と思ったが、やはり異なる環境で、また日頃と違った角度からの、先生方の的確なアドヴァイスはとても新鮮だったのだろう。
短期間の学生たちの成長は眼を見張るものがあり、毎回のことながらこの研修旅行の意味の大きさを確信することができた。様々な楽器の先生方の助言で共通することは、「身体全体で演奏する」「踊ってごらんなさい」という言葉がある。日本人は、踊ることが苦手、なんとなく照れくさい、が、ぜひ自分を主張し大きく表現できる技を身に付けてもらいたい。

ブレーメンの音楽隊

研修地を後にして、日程後半は音楽家ゆかりの街を巡った。ブラームスの家には実際に使用したピアノが置いてある。ロープなどでものものしく囲ってなどなく、だれでもその鍵盤に触れることができる。数々の名曲が生まれたその楽器を前に心が震えるような感動を覚えた。ベートーヴェンの生家を訪れ、シューマンのお墓参りをし、多くの偉大な音楽家を産んだドイツという国に、改めて尊敬の念を抱く気持ちになった。
また、メルヘン街道を南下しながらグリム童話の舞台になったブレーメン、ハーメルンも訪れたが、笛の音とともに子供が連れ去られた際に通った小路では、今もいかなる楽器の演奏もしてはならぬ、という話もとても興味深い。

個人的な話にはなるが、今回少しばかり時間を空けて、昔留学していたハノーファーを28年ぶりに訪れた。これだけの時間の長さを感じさせられる程の大きな変化はなく、とてもほっとした。音大の校舎はかなり古くなってはいたが、それは当時のままの姿でそこにあり、懐かしさがこみ上げた。ドイツを訪れるといつも思うが、良いものを永く守り、愛し、またひとつしかない物を大切にする文化は素晴らしい。また時を急がせない。例えば、エレベーターに、扉の開きを延長するボタンはあっても「閉める」ボタンはない。この閉まるまでの数秒が、私達日本人にはなんともじれったいが、そのあたりにも国民性があるのだろう。

ケルン大聖堂

最後になるが、研修最終日に先生方と食事をした際、リューベック音大の学長からこのような言葉を頂いた。「若い学生の熱意ももちろん素晴らしいが、若いころに音楽の勉強をする夢が叶わなかった人たちが、一度社会に出て、子供を育て、年を重ね、今このように海外まで来て学ぶ姿勢を心から尊敬し、またそのような環境が素晴らしい。」と。皆、この言葉にとても感動し、私達も少しばかり誇らしく思った。




●荻野千里(ピアノ奏者) プロフィール
第43回日本音楽コンクール第2位。桐朋学園大学音楽学部首席卒業後、ドイツ政府給費留学生として渡独。ミュンヘン国際コンクール第3位等の入賞を果たす。リサイタルをはじめ、主要オーケストラとの共演、レコーディング、テレビ出演、また外来演奏家との共演も多い。近年は、荻野美晴と共に、ピアノデュオのコンサートも開催。